さといもの旬はいつ?|出回りは10月上旬から、本番は11月〜12月
さといもは、出回る期間が長い野菜です。だから「旬」がぼんやりしがちですが、主産県の書きぶりを並べると、はっきりしてきます。
※各県の公開資料より。品種と産地、その年の天候で前後します。
この4つを重ねると、「10月に出始め、11月から12月が本番、その後は貯蔵したものが春まで続く」という一本の線になります。品種ごとに収穫の時期がずれているのがポイントで、埼玉県のマニュアルには「通常、『蓮葉芋』は10月、『土垂』は11月から収穫を行います」とはっきり書かれています。10月に並ぶさといもと、12月に並ぶさといもは、別の品種かもしれない——これが、同じ「さといも」の値札の下で味と煮え方が変わる理由のひとつです。
「さといも」は1種類ではない|食べている部分がちがう
さといもの話が分かりにくいのは、同じ植物なのに、食べている場所が品種によって別だからです。埼玉県農業技術研究センターの『水田におけるサトイモ栽培マニュアル』(2024年3月)には、こう書かれています。
つまり、さといもには3つの立場があります。
ここで大事なのは、「ねっとり」と「ホクホク」は品種の差であって、料理の腕ではないという点です。煮ころがしのねっとりを期待して親芋型を買えば、ホクホクしたものが出てくる。逆に煮しめで形を残したいのに子芋型を買えば、煮くずれて汁が濁る。値札の品種名を見るだけで、この行きちがいは消えます。
主な品種|買い分けの早見表
※品種の分類・「蓮葉芋」「土垂」「石川早生」「セレベス」の扱いは埼玉県『水田におけるサトイモ栽培マニュアル』、「丸系八つ頭」は埼玉県の品種紹介、「ちば丸」は千葉県の県育成品種紹介による。性格の説明には一般的な扱いを含みます。
この表のなかで、家庭にとっていちばん大きい進歩は「ちば丸」です。千葉県の紹介文では、「ヌメリが少ないため皮むきがしやすく、ロスも少ないのが特徴」で、「肉質はきめ細かく柔らかで、煮くずれしにくい」とされています。従来品種にくらべて丸く、大きいものが多いのも、皮をむく手間に直接ひびきます。平成21年度に本格デビューした比較的新しい品種です。
そして丸系八つ頭は、埼玉県が平成18年に選抜し、平成26年に名称を商標登録した県オリジナルの系統です。埼玉県のマニュアルによれば、「八つ頭」の仲間ながら親芋が多芽にならずに球形になるという特徴があり、試験では親芋の重さが418.8±35.5gになったと報告されています。正月の煮しめで「1個で皿が埋まる」のは、この大きさによるものです。
どこで作られているのか|埼玉が1位、千葉が2位
数字がはっきり出ているので、そのまま引きます。埼玉県農業技術研究センターのマニュアルには、こう書かれています。
いっぽう千葉県は、県の「ちばの農林水産物ランキング!」で、さといもを令和4年農業産出額の全国2位として挙げています。つまり1位=埼玉県、2位=千葉県。さといもは関東の平地で作られている野菜だということになります。
ここに、意外な事情がひとつあります。いま埼玉ではさといもを「水田」で作る取り組みが進んでいることです。マニュアルにはその理由として、主食用米の需要が減少傾向にあるなか、国を挙げて水田農業の高収益化が進められていること、そしてサトイモは植物体としても水を好む植物なので、生育期に必要なタイミングで引水できる水田はむしろ有利だと書かれています。
この「水を好む」という一行は、台所にも関係します。さといもは乾燥に弱い。だから店で皮がしなびているものは味が落ちていて、家でも乾く置き方をすると硬くなる。ここが次の話につながります。
店での選び方|千葉県が挙げている4つ
千葉県「旬鮮図鑑」のさといもの項では、選び方として次の点が挙げられています。そのまま使えます。
- 表面の傷がないこと……さといもは皮が薄く、傷から傷みます。
- くぼみや変色がないこと……押してへこむ部分、黒ずんだ部分は避けます。
- しま模様がはっきりしていること……これがいちばん分かりやすい目印です。皮の横じまがくっきりしているものは、育ちがよく水分も残っています。
- 芽が出ていないこと……芽が伸びているものは、置かれていた時間が長いか、温度が高い場所にあったものです。
★保存は冷蔵庫ではありません|新聞紙に包んで冷暗所
さといもでいちばん多い取りちがえが、ここです。千葉県「旬鮮図鑑」の保存方法には、こう書かれています。
なぜ冷蔵庫がだめなのか。産地の貯蔵のしかたを見ると、理由が筋道として見えてきます。埼玉県のマニュアルには、種芋の貯蔵方法として「穴貯蔵」が載っています。12月上旬までに、地下水位が高くなく雨水が流れ込まない場所に、深さ70cm〜120cm程度の貯蔵穴を準備し、株を積み重ねて稲わらを敷き、土をかけ、雨除けをして貯蔵する——というやり方です。
つまり産地は、さといもを「土の中の、乾きすぎず凍えない場所」に置いています。冷蔵室はこの逆で、低温で乾いた場所です。さといもは低温障害を起こしやすく、冷蔵室に裸で入れると硬くなったり、黒ずんだり、味が落ちたりします。だから家でも、新聞紙で乾きを止め、暗くて涼しい場所(暖房の入っていない部屋・床下・玄関の隅など)に置くのが向きます。
かゆみとえぐみの正体|同じものです
ここが、さといものいちばん大事な話です。「むくと手がかゆくなる」と「食べたときにえぐい」は、別の現象ではなく、同じ物質による同じ現象です。農林水産省「消費者の部屋」の相談事例——「サトイモの煮物を食べたらえぐ味を感じたが、どうしてですか。」への回答が、そこをはっきり書いています。
「シュウ酸カルシウムは光合成の副産物なので、地上部が濃緑な品種ほど、また、強日射や乾燥条件で栽培するほど含量が増加します。」
「サトイモを加熱することでシュウ酸カルシウムは減少するので、皮をむいたサトイモに塩をふってもみ、茹でこぼす下処理をすると良いでしょう。」
ここから、台所で役に立つことが3つ出てきます。
- かゆみは「アレルギー」ではなく、針が刺さっている……針状結晶という言葉のとおりです。だから手が濡れているときほど刺さりやすい(結晶が皮膚に入りやすい)。手袋が効くのは、成分を遮るからではなく、針が届かなくなるからです。
- えぐみは品種と育ち方で変わる……「地上部が濃緑な品種ほど」「強日射や乾燥条件で栽培するほど」増える。つまり同じ作り方をしてもえぐいときとえぐくないときがあるのは、料理の失敗ではありません。
- 対処は加熱と塩もみと茹でこぼし……国の回答に書かれている手順そのままが、いちばん確実です。
かゆくならない下ごしらえ|順番がすべて
手順そのものは単純です。順番を入れかえないことだけが条件です。
ぬめりは「取る」か「残す」か|料理で逆になります
下ごしらえの話でいちばん混乱するのが、「ぬめりは取れと言われたり、取るなと言われたりする」という点です。どちらも正しく、作るものによって逆になるだけです。
この表のいちばん下、きぬかつぎは覚えておくと得をします。小ぶりな子芋(石川早生など)を皮ごとゆで、上半分の皮をくるりとむいて出すだけ。生の皮をむく工程がないので、かゆみが起きようがない。さといもが苦手な理由が「かゆみ」だけなら、これで一つ解決します。
煮しめ・芋煮|煮物としての使い分け
さといもの料理は、おおまかに「形を残す」系と「汁ごと食べる」系に分かれます。
煮しめは、形を残す側の代表です。だしと醤油で味を含ませ、冷めてから食べるのが前提なので、煮くずれないことがすべて。ここで向くのは親芋型(八つ頭・丸系八つ頭)と、煮くずれしにくいとされる「ちば丸」です。正月の煮しめに八つ頭が使われるのは、大きくて形が残り、切り分けて盛れるからです。にんじん・れんこん・ごぼう・しいたけと一緒に炊くときは、さといもだけ下ゆでしてから合わせると、汁が澄みます。
芋煮は、汁ごと食べる側です。さといもを主役に、肉(牛または豚)・こんにゃく・ねぎ・きのこを合わせて、醤油味または味噌味で煮る鍋もの。ぬめりを残して作るのが向きます。仕上がりにとろみが出て、汁が冷めにくくなるからです。使うのは子芋型(土垂など)。屋外で大鍋で作る集まりの料理として知られていますが、家の鍋で作ってもまったく成立する料理です。むしろ、量が読める家の鍋のほうが、芋の煮え加減はそろいます。
もうひとつ、覚えておくと季節の料理が広がるのがいとこ煮です。さといも・かぼちゃ・小豆・ごぼうなど、硬いものから順に「追い追い(おいおい)」煮ることから名前が付いたといわれる煮物で、同じ秋の今が旬「栗」完全ガイドで扱った栗とも相性がいい料理です。硬いものから入れる、という考え方そのものが、さといもを煮るときの基本と同じです。
贈り物に選ぶときの見どころ
さといもはそれ自体を贈り物にしにくい野菜です。相手に下ごしらえの手間を渡してしまうからです。贈るなら、その前提で選びます。
- 品種名が書いてあるものを選ぶ……「さといも」ではなく「丸系八つ頭」「ちば丸」のように名前が入っているものは、それ自体が説明になります。贈り状に一行添えやすくなります。
- 正月に向けてなら親芋型……煮しめに使えるかたちで届くと、受け取った側の使い道が決まります。埼玉県は丸系八つ頭の旬を11月から年末年始としています。
- 土付きか、洗ってあるかを確かめる……土付きは日持ちしますが、受け取る側に洗う手間が出ます。すぐ使えるかたちが親切な相手なら、洗ってあるものを選びます。
- 加工品も候補に……皮をむいて冷凍したもの、水煮。手間の部分だけを贈るという考え方です。
- のし(熨斗)の表書き……季節のごあいさつなら「御礼」、12月に入れば「御歳暮」。冬の贈り物で日付を押さえる段取りはずわいがに解禁は11月6日|松葉・越前・加能の違いと選び方と同じ考え方です。
さといものよくある質問(FAQ)
Q. さといもの旬はいつですか?
A. 千葉県は「千葉県産さといもは11月から12月が旬」としており、埼玉県は出荷時期を「10月上旬〜4月末」としています。出始めが10月、味と量の本番が11月から12月、そのあとは貯蔵されたものが春まで続く、という流れです。埼玉県の栽培マニュアルでは「蓮葉芋」は10月、「土垂」は11月から収穫すると書かれており、品種によって収穫の時期がずれます。
Q. なぜ冷蔵庫に入れてはいけないのですか?
A. 千葉県は保存方法として「新聞紙に包んで冷暗所で保存します」「冷蔵庫は避けましょう」としています。さといもは低温と乾燥に弱い野菜です。産地でも種芋は深さ70cm〜120cm程度の穴に稲わらと土をかけて貯蔵する(埼玉県)ように、土の中に近い環境で置かれています。冷蔵室はその逆にあたります。加熱したものは冷凍保存できます。
Q. 皮をむくと手がかゆくなります。どうすればいいですか?
A. 農林水産省は、かゆみもえぐみも、さといもに含まれる針状結晶の「シュウ酸カルシウム」によるものだと説明しています。結晶が皮膚に刺さるために起きるので、洗ったあとしっかり乾かしてからむく、使い捨ての手袋をする、という順番が効きます。皮ごとゆでてから皮をつまんでむく「きぬかつぎ」にすれば、生の皮をむく工程そのものがなくなります。
Q. 煮物がえぐい気がします。作り方が悪いのでしょうか?
A. 作り方だけの問題ではありません。農林水産省は、シュウ酸カルシウムは光合成の副産物なので「地上部が濃緑な品種ほど、また、強日射や乾燥条件で栽培するほど含量が増加します」としています。品種と育ち方で変わるということです。対処として同省は、加熱すると減るので「皮をむいたサトイモに塩をふってもみ、茹でこぼす下処理をすると良いでしょう」と挙げています。
Q. ぬめりは取ったほうがいいのですか?
A. 作るものによって逆になります。煮しめや含め煮のように味を含ませて汁を澄ませたい料理では取ります(ぬめりが残ると汁が濁り、味が入りにくくなります)。けんちん汁や芋煮のように汁ごと食べる料理では、ぬめりがとろみになるので残します。揚げ物や焼き物では、油がはねるのでしっかり取ります。
Q. 煮くずれしにくい品種はどれですか?
A. 親芋を食べる「八つ頭」や、埼玉県が育成した「丸系八つ頭」は大きくホクホクした食感で、煮しめに向きます。子芋型では、千葉県育成の「ちば丸」が「ヌメリが少ないため皮むきがしやすく」「肉質はきめ細かく柔らかで、煮くずれしにくい」と説明されています。
Q. さといもはどこで多く作られていますか?
A. 埼玉県の資料では、令和4年産野菜生産出荷統計で同県の収穫量は17,900t、令和4年生産農業所得統計で産出額は44億円、どちらも全国1位とされています。千葉県は県のランキングで、さといもを令和4年農業産出額の全国2位として挙げています。
まとめ/次の旬は
さといもは、①出回りは10月上旬から、旬の本番は11月から12月。品種によって収穫の時期がずれている、②かゆみとえぐみは同じもの(針状結晶のシュウ酸カルシウム)で、乾かしてからむく・塩もみ・茹でこぼしで抑えられる、③保存は冷蔵庫ではなく、新聞紙に包んで冷暗所。加熱したものは冷凍できる。この3つで、さといもは「面倒な野菜」から「煮るだけの野菜」になります。ぬめりを取るか残すかは、作るもので決める——この一点だけ覚えておけば、煮しめでも芋煮でも迷いません。
同じ「いも」の棚では、貯蔵で甘くなるという正反対の性格を持つ今が旬「さつまいも」完全ガイドが隣にいます。読み比べると、いも類ごとの置き方の違いがはっきりします。秋の煮物つながりでは今が旬「栗」完全ガイド、煮物に合わせるご飯の話は今が旬「新米」完全ガイドへ。冬の贈り物の段取りはずわいがに解禁は11月6日にまとめました。その月ごとの旬をまとめて見たいときは10月が旬の食べもの一覧が入り口になります。
——次は、みのりが「11月が旬の食べもの一覧」をご案内する予定です。


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