柿の季節と、10月26日「柿の日」
柿の旬は10月から11月。ハウスものや冷蔵ものも含めると8月から1月ごろまで店に並びます(農林水産省)。『古事記』や『日本書紀』にも登場し、奈良時代にはすでに食べられていたと見られています。
10月26日は「柿の日」。1895年(明治28年)のこの日、正岡子規が奈良で「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」の句を詠んだことに由来し、2005年に定められたとされます。10月下旬は、渋柿の刀根早生から甘柿の富有へ主役が入れ替わるころ。記念日の日付としては、ちょうど境目に当たります。
甘柿と渋柿——分かれ目は「タンニンが溶けるかどうか」
柿の渋みのもとは水溶性タンニン。これが口の中で唾液に溶けると、あの強い渋みを感じます。ところが甘柿は、果実が熟すあいだにタンニンが水溶性から不溶性へ変わるため、口に入れても溶けず、渋く感じません(農林水産省)。つまり違いは「タンニンが入っているかどうか」ではなく、食べるときに溶ける形で残っているかどうか。渋柿の渋抜きも、渋を洗い流しているのではなく同じ「溶けない形」へ変える作業です。
※区分と品種例は農林水産省の広報誌『aff』2018年10月号「特集2 柿」による。
切ったときに果肉へ散る黒い点々は「ごま」。傷みでもカビでもなく、渋みのもとが溶けない形に変わった跡だと考えられています。不完全甘柿ではごまが多いほど渋が抜けているしるしとされ、むしろ食べごろの側の印です。
富有柿と刀根早生の違い|同じ棚に並ばない2つ
柿の棚で名前を目にすることがいちばん多いのが、この2つです。富有は完全甘柿、刀根早生は不完全渋柿。生まれも、出回る時期も、食感も違います。
刀根早生|台風で折れた木から生まれた、種のない渋柿
刀根早生は、平核無(ひらたねなし)という渋柿の枝変わりとして奈良県で見つかった品種です(農林水産省)。発祥は天理市萱生町(かようちょう)とされ、1980年に品種登録されました。1959年(昭和34年)の伊勢湾台風で折れた平核無の枝を接ぎ木して育てたところ、ほかより早く実をつける枝が偶然見つかったのが始まりだと伝えられています。
親の平核無より10〜15日ほど早く実るのが持ち味で、そのぶん9月中旬から店に出せます。名前の「早生」はここから。ただしもとは渋柿で、渋抜きをしてから出荷されます。庭先の木で「甘いと聞いたのに渋かった」という行き違いは、たいていここで起きます。
富有|『礼記』から名をとった、甘柿の代表
富有のふるさとは岐阜県瑞穂市居倉。岐阜県がまとめた由来書によれば、1820年(文政3年)ごろに小倉ノブが御所柿を植えたのが出発点で、この柿は地名から「居倉御所」と呼ばれました。広めたのは福嶌才治(ふくしま さいじ)。1884年(明治17年)に接ぎ木を試み、1892年(明治25年)には品評会で1等に入選します。名が決まったのは1898年(明治31年)。同じ柿なのに各地でばらばらの名で呼ばれていたため、才治は「福寿」「富有」の2案を川崎尋常小学校校長の久世亀吉に相談。久世は『礼記』の一節「富有四海」を説いて「富有」を薦めました。素質が備わっているものは自然と全国へ広まる——そういう意味を込めた名です。1899年(明治32年)に県の奨励品種となり、1904年(明治37年)には初めて天皇家に献上されています。
並ぶ順番を、ひと目で
※時期は目安。品種と区分は農林水産省『aff』2018年10月号、出荷時期は奈良県・和歌山県の公開情報を参照。
太秋(たいしゅう)は農研機構が「富有」を母親として育成した完全甘柿で1995年に品種登録。350〜400gの大玉と梨のようにサクサクした歯ごたえが持ち味です。おしり側に出る細かい筋は「条紋」といい、その部分は糖度が高いとされるので傷と取り違えないように。和歌山の紀の川柿は木になったまま渋を抜く「樹上脱渋」の渋柿で、果肉が黒く色づくため「黒あま」とも呼ばれます。
渋柿の渋抜き(脱渋)|家庭でできる3つの道
理屈はひとつに尽きます。アルコールや炭酸ガスで果実の呼吸のしかたを変えると、果実の中にアセトアルデヒドという物質ができ、これが水に溶けるタンニンと結びついて溶けない形に変える——それだけです。
① アルコール脱渋(焼酎)|いちばん手軽
- 35度前後の焼酎を小皿に少し注ぐ。ホワイトリカーでも構いません。
- 柿のヘタの側を、その焼酎に浸す。ヘタが濡れれば十分で、実全体を漬ける必要はありません。
- ポリ袋に並べて、空気を抜いて口をしっかり閉じる。二重にすると安心です。
- 室温で置く。1週間ほどが目安とされます。寒い場所では長くかかります。
産地の指導資料では果実15kgに38%のアルコールを約150cc噴霧して密封するといった目安が示されています(島根県)。家庭の数個なら、小皿とヘタ浸けで足ります。
② 炭酸ガス脱渋(ドライアイス)|早くて、食感が残る
果実と一緒にドライアイスを袋へ入れて密閉し、炭酸ガスで満たす方法です。家庭では果実の重さの1.5〜2%くらいを目安に入れ、4〜5日で抜けるとされます。産地では炭酸ガスをほぼ100%封入し、室温18〜20度で48時間密封したあと開封し、さらに48時間おいて完全に脱渋するという条件が確かめられています(島根県)。アルコールに比べて果肉の硬さが残りやすいので、刀根早生や平核無のようにシャキッとした食感を身上とする柿に向きます。
③ 干し柿|いちばん古くて、いちばん確実
干し柿も立派な脱渋法です。皮をむいて干すと果実の呼吸が妨げられ、中の糖がアルコールに、さらにアセトアルデヒドへ変わって、水溶性タンニンと結びつき不溶性になる——焼酎やドライアイスと同じ道すじです。ヘタの近くにT字の枝を残して皮をむくとひもが掛けやすく、熱湯に数秒くぐらせてから干すとカビが出にくくなります。雨の当たらない、風の通る軒下に吊るし、仕上がりは2週間から1か月ほど。朝晩の冷える11月以降が向きます。
できあがった干し柿の表面にふく白い粉は柿霜(しそう)といい、果実の糖が表面に出て結晶になったもの。カビではなく、よく乾いたしるしとされます。
失敗しない柿の選び方
- ヘタが果実にぴたっと張りついている:すき間が空いていると、そこから水分が抜けます。4枚のヘタがそろって大きく、実を覆っているものを。
- ヘタの色が緑で、乾いていない:茶色く干からびたヘタは、収穫から時間がたっているしるしとされます。
- 皮の色が濃く、むらなく染まっている:青みとオレンジがまだらのものは、色づきの途中で採られた可能性があります。
- 持ったときにずっしり重く、皮に張りとつやがある:同じ大きさなら重いほうが果汁を含み、しわが寄っているものは水分が抜け始めています。
追熟と保存|硬いまま楽しむか、とろとろにするか
柿の保存で覚えることはひとつだけ。水分はヘタから抜けていく——だからヘタをどう扱うかで日持ちが変わります。
硬さを保ちたいとき|ヘタに湿らせた紙、ヘタを下
- キッチンペーパーを水で湿らせ、軽く絞ってヘタにかぶせる。ヘタからの蒸発を止めるのが狙いです。
- ひとつずつラップかポリ袋で包む。乾燥と、隣の実からのエチレンの影響を抑えます。
- ヘタを下にして、冷蔵庫の野菜室へ。ヘタの面が押さえられ、いっそう乾きにくくなります。
この置き方で2〜3週間ほど、そのまま常温なら1週間から10日ほどが目安とされます。箱で届いたときはその日のうちにいったん全部出して傷んだものを取りのぞいてから並べ直すと、最後の数個までおいしく食べきれます。
やわらかくしたいとき|常温、またはりんごと一緒に
- 常温に置く:直射日光の当たらない風通しのよい場所に出しておくだけで、少しずつやわらかくなります。りんごと一緒にポリ袋へ入れると、りんごが出すエチレンが熟すのを後押しするとされ、2日ほどで食べごろになることも。1日1回、指で軽く押して様子を見ます。
- 食べごろの目安:指で押して熟したトマトくらいの弾力になったころ。そこから先は一気に進むので、冷蔵庫へ移して足を止めます。
- 食べきれないときは冷凍:丸ごとラップに包むか、皮をむいて切って保存袋へ。半解凍でシャーベットのように食べられます。目安は1〜2か月(食感は戻りません)。
柿の栄養|数字で見ると
文部科学省の食品成分データベース(日本食品標準成分表 八訂・増補2023年)によると、甘がき(生)の可食部100gあたりはエネルギー63kcal、ビタミンC 70mg、カリウム170mg、食物繊維1.6g。目を引くのはビタミンCの70mgで、柿1個200g前後・可食部180gとすると1個でおよそ126mgの計算になります。ビタミンCの1日の推奨量は成人で100mgとされています(厚生労働省「日本人の食事摂取基準」)ので、柿1個で1日ぶんの目安に届く勘定です。
産地の顔ぶれ|和歌山・奈良で全国の3分の1
農林水産省の作物統計調査(令和7年産・令和8年4月14日公表の概数値)によると、全国の収穫量は17万9,600トン、出荷量は15万6,700トンで、前年産よりそれぞれ7%、8%増えました。畑は減っていて結果樹面積は1万6,800ヘクタールと前年より2%減少。それでも量が増えたのは10アール当たりの収量が1,070キログラムと前年を10%上回ったためで、カメムシによる被害が減ったことなどが理由に挙げられています。
都道府県別では和歌山県 4万200トン(22%)/奈良県 2万5,900トン(14%)/福岡県 1万3,600トン(8%)/岐阜県 1万1,600トン(6%)/愛知県 1万300トン(6%)で、この5県で全国のおよそ6割。和歌山は県内の柿のおよそ8割が渋柿で、刀根早生から富有まで秋から年末まで切れ目なく続きます(和歌山県)。奈良は刀根早生を生んだ土地、岐阜は富有を生んだ県です。
月ごとにどんな旬が重なるのかをまとめて見たいときは、9月が旬の食べもの一覧が入り口になります。柿が出はじめる9月の棚から、10月へのつながりが追えます。
贈り物に選ぶときの見どころ
- 届く時期から品種を決める:10月なら刀根早生・平核無(渋抜き済み・種なし・しゃきっと)、11月以降なら富有・次郎(甘柿・そのまま食べられる)。日どりの決まった贈り物ほど、この読みが効きます。
- 箱の大きさは世帯の人数から:ひとり・ふたり暮らしへは2〜3kg、家族向けなら5kgが扱いやすい単位。柿は日持ちが長いほうではないので、食べきれない量は置き場所と傷みの心配ごと渡すことになります。
- 種なしかどうかは、案外効きます:小さな子どものいる家やご年配の方へは平核無や刀根早生のような種なしの柿が扱いやすいという声があります。
- ひとこと添える:「ヘタに濡らした紙をのせ、ヘタを下にして野菜室へ」——この1行で届いた柿の持ちが変わります。のし(熨斗)は季節のごあいさつなら「御礼」、12月は「御歳暮」が一般的です。
量を人数から決め、届く日を選び、ひとこと添える——この順番は秋の果物に共通します。同じ整理は今が旬「梨」完全ガイドでも整理しています。
柿のよくある質問(FAQ)
Q. 買ってきた柿が渋かったのですが、どうすればいいですか?
A. 渋抜きが足りていない可能性があります。ヘタの側を35度前後の焼酎に浸してポリ袋で密閉し、室温に1週間ほど置くと渋が抜けるとされます。渋が残ったら、そのまま干し柿に回す手もあります。
Q. 富有柿と刀根早生は、何が違うのですか?
A. 富有は完全甘柿でそのまま食べられ、刀根早生は渋柿を渋抜きして出荷したものです。出回りは刀根早生が9月中旬〜10月中旬、富有が11月上旬〜12月中旬ごろ。刀根早生は種がなく程よい硬さ、富有はやわらかめで甘みが濃いのが持ち味です。
Q. 柿を長持ちさせるには、どう置けばいいですか?
A. 水で湿らせたキッチンペーパーをヘタにのせ、ひとつずつラップで包み、ヘタを下にして野菜室へ。水分がヘタから抜けるのを止める狙いです。この置き方で2〜3週間ほど、常温のままなら1週間から10日ほどが目安とされます。
まとめ/次の旬は
柿は、①時期で品種を読む(9〜10月は渋抜きした刀根早生・平核無、11月からは甘柿の富有)、②渋抜きは「渋を取る」のではなく「溶けない形に変える」——焼酎・ドライアイス・干し柿はどれも同じ道すじ、③保存はヘタに湿らせた紙、ヘタを下にして野菜室。この3つで、秋のあいだずっと好みの硬さで食べきれます。
秋の果物は梨から柿へ、柿からみかんへとつながっていきます。柿と入れ替わりで棚の主役になる今が旬「みかん」完全ガイドも、時期の区分で読む点は柿とよく似ています。
——次の旬予告:こよみが「ラ・フランス」を持ってくる予定です。


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