ラ・フランスは「買った日」が食べ頃ではありません
いちばん最初に押さえておきたいのが、店頭に並んでいるラ・フランスは、まだ食べ頃ではないということです。山形県「ラ・フランス」振興協議会が小売・販売店向けに配っている取扱パンフレットには、産地から出荷したものが「食べ頃の4〜5日前にお店にお届けします」とはっきり書かれています。
つまり買って帰ってから数日、家で待つところまでが商品の一部ということ。買った当日の夕食に出すと、かたくて香りも薄い——という残念な結果になります。せっかくの果物が「おいしくなかった」と記憶されるのは、もったいない話です。
さらにややこしいのが色です。同じパンフレットには「追熟中、果実の色がほとんど変化しないので食べ頃が判りにくい品種」とあります。食べ頃になっても青緑のまま。だからこそ色以外の目印が要るわけです。
旬はいつ?|収穫は10月、食べ頃は11月
山形県が公開している西洋なしの品種紹介によると、ラ・フランスの収穫期は10月上旬〜10月中旬、食べ頃は11月上旬〜11月中旬とされています。収穫からおよそ1か月遅れて食べ頃が来る——この「ずれ」こそがラ・フランスという果物の正体です。
「販売開始基準日」という、産地が決める日
ラ・フランスには、他の果物ではあまり見かけない決まりごとがあります。山形県では毎年「統一販売開始基準日」を設定し、その日に合わせて出荷を開始するのです(山形県「ラ・フランス」振興協議会)。早出しで未熟なものが出回れば産地全体の評価が落ちる——それを防ぐための取り決めです。
基準日は毎年決め直されます。この記事の作成時点で山形県が公表している直近の基準日は令和7年産の10月28日(火曜日)、エチレン処理をしたものは10月23日(木曜日)で、2026年(令和8年産)の基準日はまだ公表されていません。例年は10月下旬ですが、その年の生育状況で前後しますので、買い時は山形県の発表で確かめるのが確実です。
収穫から店までに起きていること
収穫後、産地では次のどちらかの処理をしています。「収穫後に低温処理や追熟促進の処理をしないと熟度が揃わない」ためで、山形県ではすべての果実にどちらかを行っているとされています。
※山形県「ラ・フランス」振興協議会「ラ・フランス」果実取扱パンフレット(小売り・販売店用)より。
その後、傷や病気がないか確かめて箱詰めし、出荷されます。産地の資料では硬さの目安も示されていて、店に届く頃が5〜4ポンド、その4〜5日後に食べ頃、トロッとした肉質になるのは2.5〜1.8ポンド程度。家庭で測れる数字ではありませんが、店頭に並んだものは「あと少し」の段階という感覚だけ持っておくと役に立ちます。
そもそもラ・フランスは樹に実っているうちは完熟しません。かといって遅く採ればいいわけでもなく、早もぎではデンプンが糖に変わりきらず特有の香りが少なくなり、逆に柔らかくなりすぎてから採ると独特のトロッとした肉質が損なわれ、果肉が褐変する障害が出ることがあるとされます。
食べ頃の見きわめ方|色ではなく「軸」とその周り
山形県の消費者向けパンフレットと、小売店向けの取扱パンフレットに載っている目印を、家庭で使える順に並べ直すと次のようになります。
① 軸がしおれ、軸の周りに「シワ」がよってくる
いちばん確かな目印がこれです。収穫したときは軸が新鮮で、軸の周りにシワもありません。ところが食べ頃になると軸がしおれてきて、軸の周りにシワがよってきます。ただしパンフレットには「『シワ』が見えにくい場合もあります」とも添えられていて、玉の大きさや個体差ではっきり出ないこともある。そこで次の目印と組み合わせます。
② 肩を指で押す——「耳たぶよりちょっと硬め」
軸の周りの盛り上がった部分(肩)を指でそっと押してみる。山形県のパンフレットの表現では「耳たぶよりちょっと硬めが食べ頃です」。耳たぶそのものの柔らかさまで待つと、やや行き過ぎになります。
押す場所も大事です。おしりのほう(軸と反対側)は先に柔らかくなりやすく、そこを基準にすると早く切ってしまいがち。あくまで「肩」です。
③ 手で包むと、しっとりなじむ/軸がぐらぐら動く
小売店向けのパンフレットには、押さずに確かめる方法として2つ挙げられています。「肩の部分にシワがよってきて、軸がぐらぐら動くようになります」、そして「果実を手で包み込むようにして持った場合、しっとりと手になじんできます」。
この「しっとりと手になじむ」がよく分からない、という声はもっともです。おすすめは買ってきた日に一度、手で包んで持ってみること。数日後にもう一度持つと、手のひらへの当たり方がはっきり変わっています。比べる相手が記憶にあると、判断がぐっと楽になります。
④ 香りが立ってきたら、もう待たなくていい
香りも立派な目印です。産地の資料によると、ラ・フランス特有の香りの正体は酢酸エステル類・アルコール類・アルデヒド類で、これらは冷蔵庫から出したあと(あるいはエチレン処理のあと)徐々に増え、食べ頃の時期にもっとも多くなるとされています。
台所に置いておいて、近づかなくても甘い香りが分かるようになったら、その日から数日が山。香りは果実からの合図だと考えると分かりやすいと思います。
待ちすぎのサインも知っておく
追熟は行き過ぎると食味が落ち、果肉が褐変します。肩が指で簡単にへこむ、持っただけでぶよぶよする、軸のまわりが茶色くくぼむ——このあたりが合図。「もう1日待とうか」と迷ったときは、切るほうを選んだほうが失敗が少ないのがラ・フランスです。
追熟のすすめ方|適温は15度、20度を超えると風味が損なわれる
やることは食べ頃になるまで常温で置いておく、それだけ。ただし温度には向き不向きがあります。産地の資料には「おいしく追熟するための適温は15度程度」、そして「気温が高いと早く食べ頃になりますが、20度以上で追熟すると特有の風味が損なわれる」とあります。
- 10月〜11月上旬の暖かい日:室内が20度を超えることは珍しくありません。日の当たらないできるだけ涼しい場所へ。玄関や、暖房を入れていない部屋の隅が向きます。
- 気温が下がってくる時期:資料には「気温が低くなる冬期間は、果実が柔らかくなりにくいので、15度程度のやや暖かめの場所に置いてください」とあります。寒すぎると追熟が進まず、いつまでもかたいまま。冷えすぎる廊下から居室へ移すころあいです。
- 箱で買ったら、その日に一度ぜんぶ出す:重なったままだと下の段が見えません。新聞紙を敷き、軸が見えるように並べると毎日の確認が一目で済みます。
- 全部を同じ場所に置かない:半分を涼しい場所、半分を暖かい場所に分けると食べ頃が数日ずれます。まとめて食べ頃が来て食べきれないという、この果物でいちばん起きやすい失敗を避けられます。
なお、冷蔵庫に入れると追熟はほとんど進みません。これは欠点ではなく「まだ食べたくないから止めたい」というときに使える性質。裏を返せば、買ってきてすぐ冷蔵庫にしまうのがいちばんもったいない扱いで、かたいまま日数だけが過ぎていきます。
食べ頃になってからの保存|常温で数日、冷蔵で8日ほど
食べ頃はゴールではなく短い持ち時間の始まりです。山形県の消費者向けパンフレットには「食べ頃になってから、おいしく食べられる期間は常温で数日程度」、小売店向けの資料には「4日間程度」とあります。
食べきれないときの手当てもはっきり示されています。「食べ頃になった果実を冷蔵庫に入れて保管すると、8日間ぐらいはおいしい状態で保管することができ、食べたい時にいつでも召し上がることができます」。常温で待ち、食べ頃になったら冷蔵庫へ移す——これがラ・フランスの扱いの型です。
- 冷蔵庫へ移すのは「食べ頃になってから」。早く入れると、かたいまま止まります。
- 食べる2〜3時間前に冷やすと、冷やしすぎずにおいしく食べられるとされています。キンキンに冷やすと香りが立ちにくくなります。
- 待ちすぎたものは加熱して使う。コンポートや焼き菓子の具には向きます。傷んだり異臭がするものは無理に使わないでください。
和梨とラ・フランス、同じ「なし」でも別の果物
幸水や豊水といった和梨は、樹の上で食べられる状態まで熟してから収穫します。だから買ったその日がいちばんおいしい。いっぽう西洋なしは樹の上では完熟せず、収穫後の追熟ではじめて食べ頃になります。「買ってすぐ」と「買ってから数日」——これがいちばん大きな違いです。
和梨の選び方や、シャリシャリを保つ保存の仕方は今が旬「梨」完全ガイドにまとめてあります。同じ秋の果物棚に並ぶ2つですが、買い方も置き方も正反対だと思っておくと間違えません。
山形が7割|数字で見るラ・フランス
農林水産省の作物統計調査(令和7年産・令和8年4月14日公表の概数値)によると、西洋なしの全国の収穫量は2万100トンで、前年産より5,300トン(21%)減りました。統計では「果実肥大期の高温・少雨により小玉傾向となったこと等による」と説明されています。都道府県別の収穫量割合は山形県が71%(1万4,200トン)、青森県と新潟県がそれぞれ6%で、この3県で全国のおよそ8割。なおこれは「西洋なし」全体の数字で、ラ・フランスだけを数えたものではありません。ラ・フランスについては山形県が「全国の生産量の約8割を占める」としています。
山形県が強い理由は、農林水産省の地理的表示(GI)に登録された「山形ラ・フランス」(登録番号第99号・登録日は令和2年8月19日)の登録内容に見てとれます。1980年代から生食用の生産振興を始め、1988年に収穫期の予測や産地追熟の技術を確立したとあり、出荷の基準日を決められるのは、その技術があるからです。
贈り物に選ぶときの見どころ
- ひとこと添える:「常温に置いて、軸のまわりにシワがよって、肩が耳たぶよりちょっと柔らかくなったころが食べ頃です」。この一文の有無で、届いた果物の味が変わります。メッセージカードを添えられる商品を選ぶと確実です。
- 届く日から逆算する:集まりの当日に届くよう手配すると、たいてい早すぎます。5日ほど前に届くようにしておくと、ちょうどよい頃合いに間に合います。
- 玉数は世帯の人数から:食べ頃の持ち時間が短いので、数が多すぎると食べきる前に追い越されます。のし(熨斗)の表書きは、季節のごあいさつなら「御礼」、12月に入れば「御歳暮」。
ラ・フランスのよくある質問(FAQ)
Q. 買ってきたラ・フランスがかたくて甘くありません。はずれだったのでしょうか?
A. おそらく、まだ食べ頃ではありません。産地は食べ頃の4〜5日前にあたる状態で出荷しています。常温に置いて、軸のまわりにシワがよるまで待ってみてください。
Q. 食べ頃なのに色が青いままです。熟していないのでは?
A. ラ・フランスは食べ頃になっても果実の色がほとんど変化しない品種です(山形県)。色ではなく、軸がしおれているか、軸の周りにシワがよっているかで判断します。
Q. 冷蔵庫に入れてもいいですか? 食べ頃になってから、どのくらい持ちますか?
A. 食べ頃になるまでは常温です。冷蔵庫に入れると追熟がほとんど進みません。食べ頃になってからおいしく食べられる期間は常温で数日程度(資料によっては4日間程度)。食べ頃になってから冷蔵庫へ移すと、8日間ぐらいはおいしい状態で保管できるとされています。
まとめ/次の旬は
ラ・フランスは、①買った日は食べ頃ではない(店に届くのは食べ頃の4〜5日前)、②見るのは色ではなく軸——軸がしおれ、周りにシワがよったら食べ頃、③追熟は常温・15度程度が適温で、20度を超えると風味が損なわれる。この3つで、当たりはずれのほとんどが消えます。「待つ」という一手間が、そのまま味になる果物です。
秋から冬の果物は、ラ・フランスのあとに柑橘へつながります。次の主役は今が旬「みかん」完全ガイド。その月ごとの旬をまとめて見たいときは9月が旬の食べもの一覧が入り口になります。
——次の旬予告:こよみが「りんご」を持ってくる予定です。


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